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技術情報

2016.10.03レーザー損傷閾値

パルスレーザー vs CWレーザー: パルスレーザーは、非常に高いピーク出力Ppeakを実現するため、あるいは、レーザー素材および/またはシステムの物理的特性によって、パルス幅Tの一連のパルスを繰り返し周期Rで送出するというものです。一方、CWレーザーは、一定の出力で安定した光のビームを送出します。ほとんどのレーザーにおいて、パルスレーザーの平均出力PavgおよびCWレーザーの一定出力は、通常数ミリワット(mW)からワット(W)の範囲内にあります。下記の図・表は、パルスレーザーの出力特性を示す主なパラメータを図解・要約したものです。

 

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光フィルターのレーザー損傷は多くの要因に依存しています。そのため、起こりうる全ての状況においてフィルターの性能を保証することは困難です。しかしながら、これ以下であれば損傷が発生する可能性が低いというパルスのフルエンスまたはパルス強度のレーザー損傷閾値(Laser Damage Threshold; LDT)を定義することは有用であります。

tech-note-on-ldt-ai9_2ここで留意すべきは、コンポーネントの表面におけるフルエンスおよび強度が重要であり、従ってレーザー照射スポットの面積も重要となる、という点です。十分な照射スポットの面積によってフルエンスおよび/または強度を最小化することができていれば、たとえ非常に高出力のレーザーであっても、耐久性の高い光ファイバーを通じて伝送、または反射が可能です。ガウシアン分布のプロフィールを持つレーザー照射スポットの面積は、下図に示すように1/e2の強度ポイントで最も正確に計測されます。

ロングパルスレーザー: LDTを最も正確に特定できるのは、おそらくこの「ロングパルスレーザー」のフルエンスであります。ロングパルスレーザーのパルス幅τは、ナノ秒(ns)からマイクロ秒(μs)の範囲内、そしてパルス繰り返し周期R は通常1~100ヘルツの範囲内にあります。各パルス間の間隔が長いため(ミリ秒)、照射対象の素材が熱緩和される余裕がある。従って、損傷は、熱による誘発よりは、ほぼ瞬間的な光場の効果によって引き起こされることが多い。通常、損傷は根本的な素材の構造の壊滅的な破壊よりも、むしろ素材の表面や体積における欠陥、またはそれに関連して該当箇所の付近で発生する変則的な光場が原因で引き起これます。Semrock社製フィルターは、それらのほとんどが1 J/cm2オーダーのLDTとなっており、従って「高出力レーザーの品質」を持つコンポーネントとみなすことができます。

例えば、10 nsのパルスを10 Hzの繰り返し周期、1Wの平均出力で送出するNd:YAG倍波レーザーがあるとします。このレーザーのデューティー・サイクルは1 x 10-7、パルスエネルギーは100 mJ、ピーク出力は100 MWである。コンポーネントの表面の直径100 μmのスポットへビームが集中して照射された場合、パルスのフルエンスは1.3 kJ/cm2となるため、LDTが1 J/cm2のコンポーネントに対しては、ほぼ間違いなく損傷が発声することになります。しかしながら、スポットの直径が5 mmの場合、パルスのフルエンスはわずか0.5 J/cm2となるため、コンポーネントに損傷は発生しません。

このほか、覚えておくと役に立つ経験則がいくつかあります。そのうちの一つは、LDTは波長に対応する傾向があるということです。例えば、532 nm におけるLDTは、1064 nm の際のLDTの約半分になるはずである。なぜなら、532 nmにおける光の光子エネルギーが、1064 nmのときと比べて約2倍となるからです。二つ目は、LDTはパルス幅τの二乗根に対応する傾向があるということです。例えば、パルス幅20 nsのパルスのLDTは、パルス・エネルギーが同じ10 nsのパルスのLDTよりも√2倍高くなるはずだからです。

cw レーザー: CWレーザーのLDTの測定はさらに困難となります。したがって、ロングパルスレーザーのLDTと比べて、特定されることが少ない。cwレーザーによる損傷は、熱(加熱)効果が原因で生じる傾向があります。現時点において、Semrock社は自社のフィルターについてcwレーザーに対するLDTの試験や特定は行っておりません。非常におおまかな経験則としては、誘電体多層膜ミラーやフィルターなど、全てのガラス製のコンポーネントの多くが、ロングパルスレーザーのLDT(フルエンスJ/cm2)と比べて10~100倍の対cwレーザー LDT(強度kW/cm2)を有しています。

高出力のcwレーザーには、レーザービームの断面に本来の公称値と比べてかなり高い強度を持つ箇所が存在するいわゆる「ホット・スポット」と呼ばれる部分を持つことが多く、経験則からも、レーザースポット強度は名目上の値を最低2倍し、ホットスポット発生の可能性に備えるのが得策です。

準CW(Q-CW)レーザー: 準CW(Q-CW)レーザーはパルスレーザーの一種で、パルス幅τがフェムト秒(fs)からピコ秒(ps)の範囲にあり、高出力レーザーの場合の繰り返し周期Rが通常10 _ 100 MHzというものです。レーザーは通常はモードロックされていますので、Rはレーザー空洞内の光の往復時間によって決まります。このように高い繰り返し周期では、パルス間の間隔が短いため、熱緩和は起こりえません。従って、準CW(Q-CW)レーザーのLDTに関しては、cw強度の替わりに平均強度を用いるなど、cwレーザーと同様に扱われることが多い。

ピコ秒レーザーは、比較的大きなデューティーサイクル(~ 10-3)を持っています。よって、ピーク出力はさほど高くありません。一方、超短パルスレーザー(τ < 100 fs)は、非常に大きなピーク出力を持つ可能性があり、このレーザーが送出するパルスに付随して生じる高い電界が誘電性素材の電気的なボンディングを直接攻撃し、非常に興味深い結果をもたらします。しかしながら、通常はピーク強度のLDT値は相当高いものでない限り、こうした結果が大きな損傷を引き起こすことはありません。よって、レーザー損傷の原因は平均強度に関連して生じる熱損傷のメカニズムが大半を占める傾向にあります。